表紙
 

芳越同窓会名簿の取り扱いについてお願い

会員名簿は、同窓生の親睦を深めることを目的としています。  
個人情報保護の観点より、営利目的に使用することや、会員以外に貸与・転売することは一切禁止されています。取り扱いには注意して下さい。
 

ご案内・報告

芳越同窓会より >> 記事詳細

2016/12/07

平成28年度芳越同窓会総会記念講演会

| by:Web担当

  平成28年度芳越同窓会総会記念講演会

『二極化する世界 ~「月並みの国」と「果ての国」』

講師顔写真
筑波大学名誉教授 香田 正人 氏( 高17回昭和41年卒業)

●講師紹介 鎌田副会長より
 脇町高校第17回(昭和41年)卒業生である香田先生は,専門は社会工学である。これは,世の中の現象を数学的に捉え,複雑化する世界を数学や物理を通して分析,解釈していく学問である。


●講演内容
<自己紹介>
今から10年前,創立110周年記念講演のために来校して以来の母校再訪である。まずは略歴の紹介から。大学関係では東大と筑波大,民間企業では日本IBMとNYにあるワトソン研究所に勤務した。その他にも欧米の大学やEU研究所などと共同研究を行い,通算すると4年ほどを海外で勤務した。主要な学会活動の場はOR(オペレーションズ・リサーチ)学会であった。応用数学を使って社会現象を解明しようという学問分野である。OR学会からは2015年度普及賞をいただいた。
 海外経験としては,1976年から1978年までカリフォルニア工科大学の博士研究員として勤務した。カリフォルニア工科大学は世界大学ランキングでハーバード,スタンフォードなどを押さえて2011年から5年連続して第1位との評価を獲得している。私の専門分野では在籍当時から世界一との評判で,伝説的な教授陣が身近にいた。この大学で研究生活を送ったことはその後の人生の礎となっている。同大学は1891年創立で,1991年の創立百周年記念銀メダルをもらった。また,IBMワトソン研究所にも1年半勤務したが,江崎玲於奈博士が特別研究職のIBMフェローとして在籍しておられた。
現在は孫3人の成長が一番の楽しみである。最年長の孫は日本で最初にできた文京区立の小学校に通っているが,その小学校が今年創立145周年を迎えた。東大は創立140年。これらを考えると,このたびの脇町高校創立120周年は誇るべき伝統として慶賀する次第である。
<本題>
 アメリカの金融工学者ナシーム・ニコラス・タレブは,自著『ブラック・スワン』の中で,今日の本題となっている「月並みの国」と「果ての国」という,ふたつの世界観を提示している。この世界観は,我々が現在置かれているポストモダンな状況を説明する中核概念として考えることもできる。
東西冷戦終結後の四半世紀は国際社会も割と平穏であったが,今や変化が起きつつあり,世界が2極化する恐れがある。国際政治学者ではないので,ここからは私の感想として述べたい。ここ数年起きている変化は,VUCA(Volatility変動性,Uncertainty不確実性,Complexity複雑性,Ambiguity曖昧性)がキーワードだと言われる。特にこの数ヶ月間に起きた大変化の兆候の具体例としては,EUの地政学的分断(英国のEU離脱),中東地域とEUの分断(中東不法難民のEUへの大量流入), ASEANと中国(仲裁裁判所の国連海洋法条約違反判決を無視する中国の南シナ海への進出),NATOとロシア(国際法違反の武力によるクリミア併合),北朝鮮の核実験と弾道ミサイル実験(国連安保理事会決議違反)があげられる。どの事案にも,キーワードVUCAの4つの特徴が色濃く出ている。また,日本の周辺で起きている事案があることにも注意しなければならない。『ブラック・スワン』の中では,平均的な普通の人々が住む「月並みの国(メディオクリスタン)」と極端な勝者が総取りする「果ての国(エクストリーミスタン)」という形で,こうした分断が説明されている。日本を含む西側世界は総じて「月並みの国」に属するが,東アジアには「果ての国」も存在すると考えてよい。
  ブラック・スワンという言葉の意味だが,常識的には白鳥はみな白い。ところが19世紀の終わりにオーストラリアが開拓され,西オーストラリアのパースで黒いスワンが発見されて初めて世界は黒い白鳥の存在を知った。これをたとえとして,常識の想定を越える特異な事象のことを「ブラック・スワン」と呼ぶ。ブラック・スワンとは,めったに起きないがインパクトの大きな特異事象のことを表す。たとえば,9.11や3.11の事例はブラック・スワンである。科学技術では,原爆やインターネットの開発などがある。かつてはスマホなど想像もできなかったが,人々の社会交流のあり方を一変させた。このようなブラック・スワンは,主に「果ての国」の状況を特徴づけるものである。
ブラック・スワン,つまり予測不可能な想定外の特異現象は,統計学上必ず発生する。ではホワイト・スワンが住む「月並みの国」と,ブラック・スワンが潜む「果ての国」にはどのような違いがあるのか。タレブは,これら2つの国では,生起確率,すなわち発生する事象の分布形が違うとした。横軸をスケール,縦軸を発生確率としてグラフにすると,「月並みの国」では発生事象はベル型カーブの「正規分布」を示し,ランダム性は弱い。常識的な習慣や慣行に従う「プラトン的社会」である。一方「果ての国」では発生事象はスケールフリーの「べき乗分布」を示し,ランダム性が非常に強い。想定外の特異事象に翻弄される社会であり,ここでは平均値が全く意味を持たない。
 科学の世界でもブラック・スワンが現れる。最近,グーグルの人工知能「アルファ碁」が世界チャンピオンに勝利した。人口知能(AI)はチェスと将棋においてはすでに勝利していたが,盤面の局面数の最も多い囲碁で,一般予想よりも早く勝利を達成した。ブラック・スワンである。技術的な特異点をシンギュラリティと呼ぶが,AIが全人類の能力を上回る時点としてのシンギュラリティが,やがて到来するとも予想されている。もうひとつのブラック・スワンは,生物進化である。ノーベル賞を受賞したジャック・モノーは,「進化は翼の生えた偶然だ」と言った。つまり,生物進化は何らかの超自然的な目的や計画に沿って起きたのではなく,単なる偶然であると主張した。生物は生き残りを目指すが,それを決めるのは偶発的なDNAの突然変異であり,偶然に一番優れたものが選ばれて自然淘汰を経て生き残る。これも予測不能な「べき乗則」に従ったブラック・スワンにほかならない。
 3種類の予測誤差がある。可能性を過大評価する偽陽性,可能性を過小評価する偽陰性,そしてフレーミング誤差である。フレーミング誤差とは,因果関係の認識を誤り,本当の原因ではないものを問題とし,問題設定のフレームを間違えることである。哲学者カール・ポパーは,科学と非科学を区別するのは反証可能性であるとした。反証できないものは非科学である。相対性理論はニュートン力学の誤りを証明したが,ニュートン力学は反証されたが故に正統な科学である。その相対性理論も絶対ではなく反証されつつある。科学とは,観測データや実験に基づいて客観的にテストされ,その理論から誤りと「反証可能」な主張がなされうるものである。最も非科学的なのは,歴史発展の一方向的な必然性を主張するマルクス主義,夢判断など曖昧で反証のしようがないフロイトの精神分析などであろう。反証できない予定調和律を永遠の真理とする宗教も,非科学的と言わざるを得ない。
 社会学者のナオミ・オレスケスは,世界が曖昧で複雑になり不安定化しているのは,社会の複雑性の増大とともに利害関係者が増えたことが原因であるとしている。利害関係者の増加は,不確実性の増大につながる。モデルやデータは必然的に劣化するので,おそらく我々の未来はプラトン的なホワイト・スワンの住む世界ではなく「果ての国」となるかも知れない。最近起きたバングラデシュ・ダッカの人質事件では,日本人が意図的に狙われた。非常に危うい時代が来ている。今,インバウンドなどで日本に大勢の外国人が来ていることもあり,日本でテロを起こせば宣伝にもなる。日本をポピュリズムの方向に動かし,混乱を招くこともできるのだ。
 最後に,フレーミング誤差に関連するオランダ小話,「街路灯」を紹介したい。深夜,ひとりの酔っ払いが街路灯の下で一生懸命に何かを探している。聞くと,自宅の庭先で鍵をなくしたが,そこは暗くてよく見えないので,明るい街路灯の下で探していると答えた。笑い話であるが,これがフレーミング誤差である。我が国周辺の核武装をした国々は,多くの絶対矛盾(ブラック・スワン)を抱えた「果ての国」だと考えられるが,安全保障に関して日本のマスメディアは街路灯に照らされた口当たりのいいことしか報じない傾向がある。そうした中,街路灯の光が及ばない暗い場所に潜むブラック・スワンをも注意深く認識することが,これからの世界を理解する上で重要となろう。


●謝辞 戸島さん
 香田先生の1年後輩である。今から50年前の,先生の弟さん,ご家族を思い浮かべながら聞かせていただいた。不安定な国際状況を数学的に説明していただき,たいへん興味深かった。日本は将来にわたって「月並みの国」であってほしいと願う。先生のますますのご発展を祈る。


10:03 | 投票する | 投票数(2)